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世界から学ぶ、認知症「Dementia」介護のいま

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02
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世界から学ぶ #021:夕暮れ症候群 ― Sundowning

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    #1

    夕方になると、別人になる ― 「夕暮れ症候群/日暮れ症候群」という現象

    夕方の、あの時間が、こわい。

    そう感じている介護者は、少なくありません。

    昼間は、あんなに穏やかだったのに。
    陽が傾きはじめる頃になると、決まって、そわそわし出す。
    「家に帰る」と言って、玄関に向かう。
    理由もなく、怒り出す。
    落ち着きなく、家のなかを歩きまわる。

    そして、夜が更けるほど、それはひどくなっていく。

    介護をしていて、いちばん消耗するのが、この夕方から夜にかけての時間帯だ——
    そう感じているなら、それには、はっきりとした名前があります。

    「Sundowning(日没症候群)」
    日本語では、「日暮れ症候群」「夕暮れ症候群」とも呼ばれます。

    これは、あなたの介護のやり方が悪いから起きるのでも、
    その人の性格が変わってしまったから起きるのでもありません。

    まず、そのことを知ってください。


    「なぜ、夕方だけ」なのか

    日没症候群でいちばん不思議なのは、時間になると、まるでスイッチが入ったように始まることです。

    午前中は、おだやか。
    お昼過ぎも、まだ大丈夫。
    けれど、午後3時、4時——陽が傾きはじめる頃から、少しずつ、様子が変わっていく。

    この「時間の規則正しさ」こそが、日没症候群の最大の特徴です。

    海外の医療機関(アメリカのメイヨー・クリニックなど)は、これを一つの「病気」ではなく、特定の時間帯に決まって現れる、症状のまとまりだと説明しています。

    では、なぜ夕方なのでしょうか。
    原因は、まだ完全には解明されていません。
    けれど、有力とされている説が、いくつかあります。

    体内時計(概日リズム)の乱れ

    私たちの脳のなかには、「体内時計」があります。
    朝が来れば目を覚まし、夜が来れば眠くなる——この一日のリズムを刻んでいる、小さな司令塔です。

    専門的には「視交叉上核(しこうさじょうかく)」と呼ばれる場所が、その役割を担っています。

    ところが、認知症になると、この体内時計をつかさどる部分が、少しずつ壊れていきます。
    すると、「今が昼なのか、夜なのか」という、体の感覚そのものが、あいまいになってしまう。

    夕方という、昼と夜の境目。
    その「切り替わり」の時間に、壊れかけた体内時計が、うまく対応できずに混乱する——
    これが、日没症候群の有力なメカニズムだと考えられています。

    「一日の疲れ」が限界に達する

    もう一つ、見落とされがちな要因があります。
    それは、単純な「疲れ」です。

    認知症の人にとって、一日を過ごすことは、私たちが想像する以上に、体力と気力を使う作業です。
    「ここはどこか」「今、何をする時間か」を、常に考え続けなければならない。

    その緊張が、一日の終わりに向けて、少しずつ積み重なっていく。
    そして夕方、心と体のエネルギーが尽きたとき、それが混乱や不穏という形で、あふれ出してしまうのです。


    夕方の「引き金」を、減らしていく

    日没症候群には、完全な「治療法」はありません。
    けれど、症状を引き起こす**「引き金」を減らしていくこと**は、できます。

    海外の研究や医療機関が指摘している、代表的な引き金と、その対策を挙げていきます。
    すべてを完璧にやる必要はありません。一つ試してみて、合いそうなものを続けてみてください。

    引き金1|光が減り、影が増える

    夕方、部屋が暗くなってくると、ものが見えにくくなります。
    壁にできた影を、人影と見間違えたり。
    薄暗さのなかで、不安や恐怖が、ふくらんでいったり。

    → 対策:暗くなる前に、明かりをつける

    陽が落ちきる前に、早めに部屋の照明をつけましょう。
    「暗くなってから」ではなく、「暗くなる前に」が大切です。
    影ができにくいよう、部屋全体を明るく保つと、混乱が和らぐことがあります。

    引き金2|昼間の疲れと、昼寝のしすぎ

    昼間に寝すぎると、体内時計がさらに狂い、夜眠れなくなります。
    かといって、疲れすぎても、夕方の不穏につながります。

    → 対策:昼は活動的に、昼寝は短めに

    日中は、散歩や、日光を浴びる時間をつくりましょう。
    日光は、乱れた体内時計を整えるのを助けてくれます。
    昼寝をするなら、午後の早い時間に、短く。夕方近くの長い昼寝は、避けたほうが無難です。

    引き金3|カフェインと、夕食

    コーヒーやお茶に含まれるカフェインや、夕方以降の糖分は、興奮や不眠につながります。
    また、重すぎる夕食も、体に負担をかけます。

    → 対策:カフェインは午前中まで。夕食は軽めに

    カフェインを含むものは、できれば午前中で切り上げましょう。
    夕食は、消化のよい、軽めのものにすると、夜が穏やかになりやすくなります。

    引き金4|「見えない不調」― これが、いちばん大切

    ここが、いちばん見落とされやすく、そして、いちばん重要な点です。

    その夕方の不穏は、実は「日没症候群」ではなく、体のどこかの不調が、言葉にできずに現れたものかもしれないのです。

    たとえば——

    • お腹が空いている、のどが渇いている
    • 便秘や、トイレに行きたい不快感
    • どこかが痛い
    • 尿路感染症(UTI)などの、隠れた感染症

    認知症が進むと、「お腹が痛い」「トイレに行きたい」と、言葉で伝えることが難しくなります。
    その代わりに、それが「そわそわ」「怒り」「徘徊」という形で、現れてしまう。

    特に、尿路感染症は要注意です。
    高齢者では、熱が出ないまま、急に混乱や不穏だけが強くなることがあり、見過ごされがちです。

    → 対策:「いつもと違う」ときは、体調を疑う

    「急に夕方の不穏がひどくなった」というときは、まず、体のどこかに不調がないかを疑ってください。
    そして、その状態が続くようなら、我慢せず、かかりつけの医師に相談しましょう。

    薬の影響(飲み始めや、量が変わったとき)も、原因になることがあります。


    その人は、「困らせている」のではなく、「困っている」

    対策を並べてきましたが、いちばんお伝えしたいのは、技術のことではありません。

    夕方、落ち着かなくなり、怒り、家を出ていこうとする。
    その姿を見ていると、つい、こう思ってしまうかもしれません。
    「どうして、いつもこの時間に、私を困らせるんだろう」と。

    でも、どうか、思い出してください。

    その人は、あなたを困らせているのではありません。
    その人自身が、いちばん困っているのです。

    体内時計が壊れ、昼と夜の区別がつかなくなり、
    薄暗い部屋のなかで、ここがどこかも分からず、
    言葉にできない不安のなかに、たった一人でいる。

    「家に帰りたい」という言葉は、
    今いる家のことではなく、心から安心できた、遠い昔の場所を求めているのかもしれません。

    そう思うと、少しだけ、その姿の見え方が変わってこないでしょうか。


    この記事で、覚えておいてほしいこと

    最後に、大切なことを、三つだけ。

    ① 夕方の不穏には「日没症候群」という名前があり、あなたの介護のせいではありません。原因は、その人の脳のなかの、体内時計の乱れです。

    ② 完全にはなくせなくても、「引き金」を減らすことはできます。光、生活リズム、カフェイン、そして「隠れた体の不調」。この四つを、まず見直してみてください。

    ③ そして、これがいちばん大切です。夕方の不穏が、いつもと違って急にひどくなったときは、「性格の変化」だと思い込まず、体調不良のサインを疑ってください。尿路感染症や痛み、脱水が隠れていることが、とても多いのです。

    夕方の時間が、こわい。
    その気持ちは、よく分かります。

    でも、その時間に起きていることの「正体」を知れば、
    少しだけ、落ち着いて向き合えるようになります。

    その人も、あなたも、あの夕暮れのなかで、
    一緒に、困っているのです。

    一人で抱え込まず、どうか、周りの手を借りてください。


    参考にした「世界の知恵」

    • Mayo Clinic(メイヨー・クリニック)「Late-day confusion in people with dementia」
    • Alzheimer's Association(アルツハイマー協会)「Sleep Issues and Sundowning」
    • 日没症候群と概日リズム障害に関する複数の医学研究(Frontiers in Neuroscience ほか)

    ※夕方の不穏が急に強くなった場合、尿路感染症・脱水・痛み・薬の副作用など、治療できる原因が隠れていることがあります。「認知症だから仕方ない」と決めつけず、かかりつけの医師や地域包括支援センターにご相談ください。介護者自身の睡眠が削られ続けているときも、我慢せず、必ず周りに助けを求めてください。


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