世界から学ぶ #012:徘徊 ― Wandering
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「家に帰りたい」と歩き続ける父 ― 米国では“Wandering”をどう考えているのか
認知症の方が家を出て、そのまま道に迷ってしまう。
日本では「徘徊(はいかい)」という言葉で表現されることが多い行動です。
家族にとっては、ほんの数分目を離しただけで姿が見えなくなることもあり、命に関わる深刻な問題でもあります。
しかし、欧米ではこの行動を Wandering(歩き回る・道に迷う) と呼び、少し異なる視点から捉えています。
「危険だから止める」というだけではなく、
『なぜ、その人は歩き始めたのだろう』
という理由を理解することも、認知症ケアの重要な考え方になっています。
「歩き回る」ことには理由がある
米国の認知症支援団体 Alzheimer's Association では、歩き回る背景には様々な理由があると説明しています。例えば、
- 昔住んでいた家へ帰ろうとしている
- 以前勤めていた職場へ向かおうとしている
- 家族を探している
- 不安や落ち着かなさを感じている
- 運動不足や退屈を感じている
- トイレや何か目的の場所を探している
本人にとっては意味のある行動でも、周囲から見ると突然家を出てしまったように見えることがあります。
だからこそ、「歩き出した理由」を理解することが、対応の第一歩と考えられています。
実際にあった米国での介護者の経験
ある家族介護者は、認知症の父親が突然家を出てしまい、近所を必死に探し回ったそうです。
見つかった場所は、何十年も前に勤めていた会社へ向かう途中の道路でした。
父親にとっては、仕事へ行くことが「今日やるべきこと」だったのです。
別の介護者は、近所の人たちへ事情を説明し、母親の写真と連絡先を共有していました。
そのおかげで、母親が一人で歩いている姿を見かけた近所の人がすぐに連絡をくれ、大事には至らなかったそうです。
こうした経験談からは、「家族だけで抱え込まず、地域全体で見守る」という考え方が根付いていることが伝わってきます。
欧米で行われている主な対策
欧米では、「歩くこと」を完全に止めることよりも、安全を確保する工夫が数多く行われています。
例えば、
- GPS端末や位置情報サービスの活用
- ドアセンサーや開閉アラームの設置
- 身元情報を携帯できるブレスレットやIDタグ
- 日中に十分な散歩や運動の時間を設ける
- 地域住民や近隣との見守りネットワークを作る
- 本人が安心できる生活リズムを整える
などがあります。
技術だけではなく、「一人で介護しない環境づくり」も大切にされています。
日本でも参考になること
日本でもGPS機器の普及が進み、行方不明時の早期発見につながる事例が増えています。
しかし、欧米の取り組みを見ていると、GPSはあくまでも一つの手段であり、それ以上に大切なのは、
「なぜ歩こうとしているのか」を理解すること
そして、
「歩いてしまっても安全に戻れる環境を整えておくこと」
なのだと感じます。
歩くことを完全に止めることは難しいかもしれません。
だからこそ、本人の気持ちに寄り添いながら、安全を支える仕組みを家族や地域全体で考えていくことが重要なのではないでしょうか。
編集後記
この「世界から学ぶ」シリーズでは、海外で実際に行われている認知症ケアや家族介護者の経験を、日本の介護にも役立つ形で紹介していきます。
国が違っても、介護に悩み、迷い、工夫しながら大切な人と向き合う気持ちは共通しています。
海外の事例を知ることは、日本の介護を見つめ直すきっかけにもなるかもしれません。
参考情報
- Alzheimer's Association「Wandering」
- Cleveland Clinic「What to Do When Alzheimer's Patients Wander」
- The Caregiver's Journey「Practical Tips to Prepare for and Prevent Wandering」
世界は広くても、介護者の悩みは驚くほどよく似ています。だからこそ、世界から学べることがあります。
世界から学ぶ世界には、同じ悩みに向き合いながら工夫を重ねている介護者がいます。
このシリーズでは、その知恵を日本の介護にも役立つ形で紹介していきます。次回:世界から学ぶ #013:病識の欠如 ― Anosognosia
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