世界から学ぶ #003:オランダ 「ホグウェイ」
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オランダの革新的な認知症ケア施設「ホグウェイ(Hogeweyk)」について、その具体的な仕組みや患者さんたちの生活、スタッフのサポート方法を詳しく解説します。ここは、従来の「白い壁、長い廊下、ナースコール」といった病院型の施設とは180度異なる、「普通の生活」を最期まで送り続けるための街です。
1. 街の構造:自由と安全が両立する空間
ホグウェイは、約1.5ヘクタール(サッカー場約2面分)の敷地の中に作られた、文字通りの「村」です。
- 閉じ込められない自由:
敷地全体がひとつの大きな安全区域になっており、外へ通じる出入口は厳重に管理されたフロント1箇所のみです。そのため、入居者は「徘徊」を咎められることも、ドアに鍵をかけられることもなく、街の中の通りや広場、中庭を24時間いつでも自由に歩き回ることができます。 - 本物の街並み:
敷地内には、スーパーマーケット、居酒屋(パブ)、カフェ、映画館、劇場、美容室、遊歩道などが本物として営業しています。
2. 患者の生活:これまでの人生(ライフスタイル)の継続
ホグウェイの最大の特徴は、入居者を「認知症の患者」として一括りにせず、その人がこれまで送ってきた人生の背景や好みに合わせて暮らす点にあります。入居者は以下の7つのライフスタイル(文化)に分類された一軒家(1軒に6〜7人が同居)で暮らします。
- クリエイティブ(芸術・音楽好き)
- プロフェッショナル(ビジネスや学術を重んじる)
- トラディショナル(オランダの伝統的な暮らし)
- アーバン(都会的でモダンな暮らし)
- インディアン(インドネシア文化などの国際派)
- ホームリー(家事や家庭的な雰囲気を好む)
- アッパー・クラス(格式やマナーを重んじる富裕層的暮らし)
家具の調度品、流れる音楽、提供される食事、さらにはスタッフの言葉遣いに至るまで、そのライフスタイルに徹底的に合わせられます。これにより、脳が混乱せず、自分の家(居場所)にいるという安心感を得られます。
3. スタッフのサポート:日常に溶け込む「ステルス介護」
ホグウェイで働くスタッフ(看護師、介護士、心理士など)は、誰も白衣を着ていません。
- 街の住民を演じる:
スタッフは私服で、ある時は「スーパーの店員」、ある時は「カフェの店員」、ある時は「同じ家に暮らす同居人(ハウスマネージャー)」として自然に患者の生活に溶け込んでいます。 - あえて「普通にお金を払ってもらう」:
患者がスーパーでお買い物をするとき、財布を持っていなかったり、お札の計算ができなかったりしても、店員役のスタッフは「あ、ツケにしておきますね」と自然に受け流し、後から施設側で会計を処理します。患者は「自分でお買い物ができた」という尊厳と達成感を保つことができます。 - 主体性を奪わない:
同居人役のスタッフは、料理や掃除をすべて代行するのではなく、患者と一緒にジャガイモの皮をむいたり、洗濯物を畳んだりします。役割を持つことが、症状の進行を遅らせる最大のケアになるからです。
ホグウェイがもたらした劇的な効果
この施設が世界中に衝撃を与えたのは、そのユニークさだけでなく、医療的な成果が数字で証明されたためです。
- 薬物(精神安定剤)の使用量が激減:
「あれをしてはダメ」「ここから出てはダメ」という行動制限(ストレス)が一切ないため、認知症の周辺症状(大声を出す、暴力、強い焦燥感)が起こりにくくなり、薬に頼る必要がほとんどなくなりました。 - 運動量の増加と健康寿命の延び:
毎日、自分の意志で街を歩き回り、買い物や映画に出かけるため、身体機能が維持され、食欲が増し、入居者の寿命が従来の施設に比べて長くなる傾向が見られています。
本質にある哲学
ホグウェイの創設者であるイヴォンヌ・ファン・アメロンゲン氏は、**「もし自分が認知症になったら、どんな場所で暮らしたいか?」**を徹底的に突き詰めてこの街を作りました。それは、医療管理されたベッドの上ではなく、「昨日までの自分と同じように、ビールを飲み、買い物をし、季節を感じて暮らす場所」だったのです。
世界から学ぶ世界には、同じ悩みに向き合いながら工夫を重ねている介護者がいます。
このシリーズでは、その知恵を日本の介護にも役立つ形で紹介していきます。
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