世界から学ぶ #015:ランセット 「Lancet」
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世界で最も権威のある医学雑誌の一つをご存知でしょうか。その名は『ザ・ランセット(The Lancet)』。1823年に
イギリスで創刊され、200年以上の歴史を誇る国際的な医学ジャーナルの超名門です。「ランセット」とは、本来は中世から使われていた先端の尖った「外科用メス」を意味します。この誌名には、医療器具のメスのように「医療界の膿を切り出す」という意味と、光を通す「ランセット窓(尖頭窓)」のように「医学の知識で広く世界を照らす」という2つの強い意志が込められています。
日々、世界中の専門家による最先端の研究論文が掲載され、その発表は各国の医療政策や治療方針を大きく動かしています。
「認知症の45%は予防できる」という希望のデータ
この『ザ・ランセット』に設置された専門委員会(ランセット委員会)が発表し、世界中に大きな衝撃と希望を与えた報告書があります。それが「認知症の予防、介入、ケアに関する報告書」です。
かつて認知症は「高齢になれば避けられないもの」「予防できないもの」と考えられがちでした。しかし同委員会は、世界中の膨大な研究データを分析し、私たちのライフスタイルや環境の中にある「修正可能なリスク要因」を改善することで、発症を大幅に予防、または遅らせることができると科学的に証明したのです。
2020年の発表時点では「40%が予防可能」とされていましたが、研究がさらに進んだ最新の報告では、その数値が「45%」へと引き上げられました。
委員会が指摘するリスク要因は、人生のステージごとに異なります。
- 若年期(45歳未満): 教育の欠如(学び続けることが脳の保護になる)
- 中年期(45〜65歳): 難聴、高血圧、肥満、過度の飲酒、頭部の負傷、そして新たに追加された「高LDLコレステロール」
- 高齢期(65歳以上): 喫煙、うつ病、社会的孤立、運動不足、糖尿病、大気汚染、そして新たに追加された「未治療の視力低下」
特に中年期の「難聴」や高齢期の「視力低下」などは、脳への刺激が減少することでリスクを高めるため、適切な治療や補聴器・メガネの使用が有効な対策になるとされています。専門家たちが論文の中で強調しているのは、「予防への取り組みは、早すぎることも遅すぎることもない」というメッセージです。
権威ある知見を「日本語」で手軽に学ぶには?
『ザ・ランセット』の論文は基本的には誰でもアクセス可能ですが、専門的な英語で書かれているため、一般の私たちが原著をそのまま読み解くのはハードルが高いのが現実です。
しかし、この世界最高峰の知見を諦める必要はありません。日本国内でもその概要を日本語で手軽に知る方法がいくつかあります。
- 医療系ニュースサイトの活用
『日経メディカル』や『ケアネット』などの医療専門メディアでは、ランセットの重要な論文が発表されると、日本の医師や専門家による分かりやすい解説記事が掲載されます。 - 一般メディアや行政情報のチェック
今回ご紹介した認知症の報告書のように、社会的な影響が大きいテーマは、大手新聞社の科学部による解説記事や、厚生労働省・自治体が発行する健康習慣パンフレットなどに分かりやすく噛み砕かれて反映されています。
今日の「世界から学ぶ」結びとして
医学の最前線が教えてくれるのは、私たちの未来は日々の選択の積み重ねで変えられるという事実です。
「もう遅い」と諦めることも、「まだ早い」と遠ざけることもなく、耳や目の健康に気を配る、意識して誰かと会話する、少し歩いてみる。そんな日常の小さなアクションこそが、私たちの脳と未来を守る最高の「メス(ランセット)」になるのかもしれません。
世界から学ぶ世界には、同じ悩みに向き合いながら工夫を重ねている介護者がいます。
このシリーズでは、その知恵を日本の介護にも役立つ形で紹介していきます。 -
記事の補足として、本文に出てきた『The Lancet(ランセット)』が発表した「認知症の発症や進行を遅らせることができる、修正可能な14のリスク要因」の具体的な中身をこちらに共有しておきますね。
この報告書(2024年発表の最新版)では、人間の生涯を「若年期」「中年期」「高年期」の3つのステージに分け、それぞれの時期にコントロールできるリスク要因を科学的に分析しています。
これらを適切に管理・予防することで、世界全体の認知症の発症を最大45%も予防・遅延できる可能性があるとされています。
🧠 認知症を防ぐための14のリスク要因(ライフステージ別)
① 若年期(45歳未満)
- 1. 教育水準の低さ
若い頃に脳をしっかり使い、認知的予備能(脳のタフさ)を高めておくことが生涯にわたる予防に繋がります。
② 中年期(45歳〜65歳)
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2. 難聴(聴力低下)
音の刺激が減ると脳の萎縮が進みやすくなります。補聴器の使用などで最も予防効果が高まる要因の一つです。 -
3. 頭部外傷
スポーツや事故による頭部への強い衝撃を防ぐこと。 -
4. 高血圧
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5. 肥満
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6. 過度の飲酒
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7. 喫煙
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8. 糖尿病
(4〜8は、脳の血管を健康に保つための生活習慣病対策がそのまま認知症予防に直結することを示しています)
③ 高年期(65歳以上)
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9. 社会的孤立
人との交流が減ることが脳に大きなダメージを与えます。 -
10. うつ病
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11. 運動不足
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12. 大気汚染
微小粒子状物質(PM2.5)などの環境リスクも脳に影響を与えることが分かってきました。 -
13. 視力低下(未治療の白内障など)
最新版で新たに追加された要因です。目からの情報が減ることも認知機能の低下を招きます。 -
14. 高コレステロール(LDLコレステロールの高値)
こちらも最新版で追加。動脈硬化を防ぐことが重要です。
こうして見ると、認知症は「遺伝や加齢で仕方のないもの」ばかりではなく、「日々の暮らしや社会の仕組み(孤立させない街づくりなど)によって、自分たちで遠ざけることができるもの」であることがよく分かりますね。
次回「世界から学ぶ #016」では、この中の「社会的孤立」や「うつ病」を防ぐためにイギリスが国を挙げて取り組んでいるユニークな仕組みについて詳しくご紹介します!
- 1. 教育水準の低さ
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